夏休みに、子どもと映画館へ行きました。
本編の前に、頭がビデオカメラの男が踊るCMが流れます。子どもが「これ何」と聞いてきました。
うまく説明できなくて、「昔からあるやつ」と答えました。最近、こういう答え方が増えた気がします。
19年で6代目。「NO MORE 映画泥棒」は、ずっと作り直されてきました
「NO MORE 映画泥棒」です。初めて劇場で流れたのは、2007年6月30日でした。
「昔からあるやつ」で、だいたい合っています。ただ、ずっと同じものが流れていたわけではありません。
3年後の2010年、ダウンロードの違法化に合わせて作り直されます。パトランプ男が初登場したのはこのときで、カメラ男より三年あとの新人です。
その二年後にも、違法ダウンロードの刑事罰化に合わせて作り直し。2014年にはポップコーン男とジュース男が加わり、衣装も新しくなりました。
2020年版では街中の逃走劇になって、アクションが増えます。おととしの8月には、テロップが三か国語から七か国語になりました。
そして8月28日から、6代目が流れます。カメラ男が、スマートフォンを手にする版です。
19年で、5回。だいたい3、4年ごとに作り直されている計算になります。
舟べりに刻んだ印は、動きません
『呂氏春秋』に、こんな話があります。
舟で川を渡っていた男が、持っていた剣を水に落としました。男はあわてて、舟べりに刻み目をつけます。ここから落ちた、と。
舟が岸に着いてから、その刻み目の真下にもぐりました。剣は、もちろん見つかりません。舟のほうが、動いていたからです。
刻舟求剣(こくしゅうきゅうけん)といいます。原文はこのあと、昔ながらのやり方で国を治めようとするのも、これと同じだ、と続きます。
映画泥棒のCMは、この逆をやってきたことになります。舟が動くたびに、刻み目のほうを彫り直してきました。
「うちのルール」も、舟べりの刻み目です
うちのルールは、たいてい刻み目です。
「ゲームは30分」も、「5時までに帰る」も、決めたときは正しかった。その頃の子どもの年齢にも、生活にも、ちゃんと合っていました。
ただ、舟は進みます。
30分で足りていた子が、友だちと約束をするようになる。5時に帰れば済んだ子に、塾ができる。
そして厄介なことに、刻み目は目に見えます。「30分って言ったよね」と、こちらは言えてしまう。舟が動いたことのほうは、目に見えません。
ルールが合わなくなったのは、育て方を間違えたからではありません。子どものほうが、動いたからです。
むしろ、刻み目が合わなくなったこと自体が、舟の進んだ証拠です。
今日ひとつだけ ——「これは何のためだったか」を、一度だけ言葉にする
ルールを変えるのは、負けた気がします。押し切られたようで、決まりが悪い。
でも、6回作り直されたあのCMは、伝えたいことを一度も変えていません。映画館での撮影・録音は犯罪です。十年以下の懲役、もしくは一千万円以下の罰金。そこは十九年、動いていません。
変えたのは毎回、持ち物と見た目のほうでした。
だから今日は、ひとつだけ。
合わなくなったルールについて、「これは何のためだったか」を、一度だけ言葉にしてみる。
目が悪くなるのが心配だったのか。宿題の時間が無くなるのが嫌だったのか。
そこがはっきりすれば、刻み目は彫り直せます。
子どもに聞かれたら、今度はこう答えようと思います。
あれは六代目で、19年のあいだに5回作り直されている。中身は一度も変わっていない、と。
ゲームの30分の話は、そのあとで。

