進まなかったのではなく、離れなかった — 衛星「みちびき」が8の字を描く理由

子育て

夜、洗濯物をたたみながら、ふと考えます。

今日は何をしたんだったか。ごはんを作って、片づけて、送って、迎えに行って。

たたんでいるそばから、明日ぶんが洗濯機で回っています。

やることは山ほどあったのに、何ひとつ「進んだ」感じがしない。そういう日があります。

衛星「みちびき」は、8の字を描いて日本の上にいる

8月11日の明け方、種子島から人工衛星がひとつ打ち上げられました。

みちびき7号機。日本版GPSとも呼ばれる、位置を測るための衛星です。午前4時23分、H3ロケットに載って飛んでいきました。

みちびきは、空でじっとしているわけではありません。

天気予報に出てくる静止衛星は、地球の自転と同じ速さで回るので、地上からは止まって見えます。みちびきが通るのは「準天頂軌道(じゅんてんちょうきどう)」という、少しかたむいた軌道です。

かたむいているぶん、地上から見ると南北にずれます。その軌跡が、8の字を描く。

そしてこの8の字は、わざと上下でつり合いを崩してあります。

北半球では地球から遠ざけて速度を落とし、南半球では近づけて速度を上げる。そうすると北半球に約13時間、南半球に約11時間。日本の側に、長くいられます。

動き続けているのは、遠くへ行くためではありません。日本の上から、離れないためです。

進まなかったのではなく、離れなかった

子育ての一日は、たいてい「保つ」ことに使われています。

洗ったそばから汚れて、片づけたそばから散らかる。昨日と同じ場所に、今日も立っている。

だから夕方になると、何も進まなかった気がします。手元に残っているのは、明日もまた同じことをするという事実だけです。

でも、あの一日ぶんの力がなかったら、同じ場所には立っていられません。ごはんは今日も出て、洗濯機は今日も回って、子どもは今日も寝ました。

前に進むためではなく、離れないために使った力です。

みちびきも、8の字を描き続けることで日本の上にいます。描くのをやめたら、そのまま流れていってしまう。

進んでいないのと、離れずにいるのは、似ているようでまるで違います。

今日ひとつだけ ——「保ったもの」を数える

寝る前に、ひとつだけ数えてみてください。

今日、保ったもの。

進んだことを数えると、たいてい何も出てきません。今日の成果、と言われても困ります。

でも「保ったもの」なら出てきます。ごはんが出たこと。洗濯機が回ったこと。子どもが今日も無事だったこと。

数えるのは、えらかったことではありません。ただ、保ったことです。

ひとつ見つかれば十分です。布団のなかで一つ思いついたら、そこで終わりにして、寝てください。


みちびきは、いま7機そろえようとしています。1機が日本の上にいられる時間には、かぎりがあるからです。

代わる代わる空にのぼって、8の字を描いて、また沈んでいく。

たたんだ洗濯物は、明日にはまた出ます。それでも今日、あなたは離れずにいました。

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