会議で、去年辞めた人の話になりました。
あの仕組みを作ったのは誰だったか、という話です。
名前が出てきませんでした。三人いて、誰も言いませんでした。
四百年前の武将のために、二つの市が連名で文書を出しました
大河ドラマ『豊臣兄弟!』で、中川清秀という武将の描かれ方が問題になりました。
大阪府茨木市と大分県竹田市が、連名でNHKに意見書を出しています。二つの市は歴史文化姉妹都市で、清秀は茨木城主、中川家はのちに大分の岡藩を治めました。
茨木市長は、Xにこう書いています。
史実に照らせば、清秀公は忠義者であり、裏切り者ではありません
清秀が亡くなったのは、四百年以上前です。
原典は「虎」ではありません
こんな言葉があります。
虎は死して皮を留め、人は死して名を残す
虎は死んでも皮が残る。人は死んでも名が残る。そういう意味です。
ただ、原典では「虎」ではありません。もとは豹です。
出典は『新五代史』の王彦章伝。後梁の武将・王彦章が、敵に捕らえられた場面で言い放った言葉でした。降伏を拒んだときの一言です。
日本では「虎」の形で広まっています。いつ入れ替わったのかは、調べても出てきませんでした。
決まっていく場所に、本人はいません
清秀は、もう何も言えません。
四百年後に自分がドラマで裏切り者として描かれるとは、思っていなかったはずです。そして、二つの市がそれに抗議するとも。
清秀の名誉を守っているのは、清秀を見たことがない人たちです。四百年たっているので、当然ですが。
去年辞めた人も、同じです。あの人がいない会議で、あの人の名前が出るかどうかが決まる。
そして、こちらもいつか、その場にいない側になります。
今日、ひとつだけ
今日ひとつだけ、やってみてほしいことがあります。
その場にいない人の名前を、一度だけ出す。
「あれは、○○さんが作った仕組みです」。それだけでいいです。
本人には伝わりません。伝わらなくて大丈夫です。名前が出る場所に、本人はいないものなので。
二つの市長がやっているのも、たぶん同じことです。清秀に届くわけではありません。それでも出しています。
王彦章は、捕らえられた場で「豹は死して皮を留め」と言いました。
自分で名を残そうとした人の言葉です。
でも実際に残すのは、たぶん本人ではありません。

